大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)3012号 判決 1966年10月20日
原告(反訴被告) 岡喜作
右訴訟代理人弁護士 上田稔
右訴訟復代理人弁護士 酉井善一
被告(反訴原告) 細見二郎
右訴訟代理人弁護士 山本寅之助
同 芝康司
主文
一、被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し
(1) 別紙目録記載の各株券につき、その第一裏書欄に裏書譲渡のための署名をせよ。
(2) 原告(反訴被告)より金一九二万五、〇〇〇円の提供をうけるのと引換に、八尾市光町日本精器株式会社発行の株式三、八五〇株額面計一九二万五、〇〇〇円(一株五〇〇円)の株券を裏書のうえ引渡せ。
(3) 金二八四万五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年二月二五日より右完済まで年五分の金員を支払え。
二、原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。
三、被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。
四、訴訟費用は本訴反訴を通じすべて被告(反訴原告)の負担とする。
事実
第一原告(反訴被告、以下原告という)ならびに被告(反訴原告、以下被告という)の申立。
本訴につき――原告
主位的申立
「原告に対し被告は、
一 別紙目録記載の各株券につき、その第一裏書欄に裏書譲渡のための署名をせよ。
二 原告より六三〇万円の提供をうけるのと引換に、八尾市光町、日本精器株式会社発行の株式一万二、六〇〇株額面金額計六三〇万円(一株五〇〇円)の株券を裏書交付せよ。
三 金六一六万円ならびにこれに対する昭和四一年二月二五日より右完済まで年五分の金員を支払え。」
予備的申立
「A 主位的申立一、三項同旨および
B 被告は原告に対し金七〇〇万円およびこれに対する昭和四一年二月二五日より右完済まで年五分の金員を支払え。」
反訴につき―被告。
「反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し、金一〇万円の提供をうけるのと引換に、別紙目録記載の株券を引渡せ。」
第二主張
(原告)
本訴請求原因と反訴答弁
「一、昭和三二年四月頃原告は被告より同人が有した別紙目録記載の株券(以下本件株券という)に表章される記名株式二〇〇株(以下原始株ともいう)額面一〇万円を対価一〇万円支払のうえ譲渡をうけ、即時右株券の交付のみをうけて現にこれを所持する。
(被告)本訴答弁と反訴請求原因
一、昭和三二年四月、被告は自己が代表取締役である訴外日本精器株式会社の運転資金に充てる目的で、学校の後輩でありかつ日本精器への納入業者である原告より、金一〇万円を借受け、その担保として、本来株券を同人に預託交付した。
二、1、右譲受時以降、日本精器株式会社は数次にわたり第一別表増資額欄記載のごとく増資をなした。なお原資本金は一〇〇万円であり、昭和三三年六月に第一回増資がなされた。
(被告)二、1、明かに争わず。
2、右増資はすべて株主に割当てられたものである。
(被告)2、否認。
3、原告は、前記株式譲受けにあたって被告の譲渡裏書をうけず、したがって株主名簿にも登載されなかったため、株主であるのにもかかわらず原始株あるいは原始株およびそれより派生した増資株を基準とする右各次の増資の割当をうけられず、株券上ならびに株主名簿上株主名義となっている被告において原告に代って右各増資新株の割当をうけ、額面金額を払込みのうえ現在前出増資分について株主の形になっている。
(被告)3、否認。
4、原告は原始株あるいは原始株およびそれに根をもつ株式を基準として割当てられた増資新株についてはすべて株主たりうべきところ、前記の事情でその割当をうけえなかった。そして右増資新株の割当を得ていれば有したであろう株式は原始株を含めて第一別表原告の有すべき株式欄記載のとおりであり、これと原告所持の株券により表章される株式との差は同表差欄記載のとおり額面六三〇万円すなわち一株五〇〇円の株式一万二、六〇〇株となる。
(被告)4、否認。
5、右一万二、六〇〇株については原告が実質上株主である。
(被告)5、否認。
三、1、右増資株に対する利益配当率ならびに配当金は第一別表配当率欄ならびに配当金欄記載のとおりである。
(被告)三、1、明かに争わず。
2、同増資株は原告が有すべきものであり、したがって原告は同表配当金欄記載の金員計六一六万円を日本精器から受けるべき筈のところ、被告において右配当金を受領し、ために原告はこれを失った。
(被告)2、否認
3、よって被告は不当利得ないし不法行為として右六一六万円を原告に返還ないし賠償すべき義務がある。
(被告)3、争う。
四、よって、被告は原告に対し、本件株券についての裏書手続義務および六三〇万円の受提供と引換に額面六三〇万円の日本精器株券の裏書交付義務ならびに主申立三項の金員支払義務がある。」
五、予備的請求原因―但し予備的申立B関連部分のみ、予備的申立Aについては主請求原因相当部分どおり。
仮に前出各増資新株を名義上はもちろんのこと実質上も原告が有しないものであり、したがって被告に対し右増資新株を表章する株券の引渡請求権(裏書交付請求権)がないものとすれば、右増資株式を原告が得られなかったのは被告が本件株券の裏書義務を履行せず、ひいては株主名簿に原告が株主たることの登載を得られなかったことによるものであるから、被告は原告に対し原告の喪失した増資新株相当額の損害を賠償すべき義務があり、その額は前示額面六三〇万円株数一万二、六〇〇株の時価相当額となる。右時価は一株当り額面の八・五倍すなわち四、二五〇円である。すると一万二、六〇〇株分の時価は五、三五五万となる。しかし原告は、株主たるためには払込金六三〇万円の出費を要したのであるが、これを免れたので、損益相殺として右六三〇万円を前示五、三五五万円より控除すべく、したがって被告は原告に対し四、七二五万円とこれに対する損害発生後である昭和四一年二月二五日より年五分の遅延損害金支払義務がある。よってその内金として予備的申立Bの金員支払を求める。
(被告)五、否認。
第三証拠<省略>
理由
一、株式の譲渡
原告請求原因一の事実が認められ、したがって反訴請求原因はすべて認められない。記名株式においても株式譲渡の合意と右株式を表章する株券の交付とがあれば株式の譲渡は有効である。
二、原始株を基準とする新株発行
1 請求原因二1は被告の明かに争わないところである。
2 本件株式譲渡時以降の日本精器株式会社の各次増資新株発行に際しての新株引受権の割当は次のとおりである。
増資時期 割当比率
三三・六 全株主に旧株一対新株一
三四・一二 社内株主旧株一対新株一
社外株主旧株一対新株〇・五
残余は非株主たる縁故者割当
三六・六 全株主に旧株一対新株一
三七・一二 三四・一二時と同じ
三九・六 〃
四〇・一〇 〃
3 被告は社内株主であり、各新株発行時にそれぞれの時点における被告名義の旧株数と同数の割当をうけ、一株五〇〇円の割合による額面金額を払込のうえ各次増資新株の株主名義を得た。
4 原告は前出認定の本件原始株式譲受当時には、被告より本件株券の裏書をうけられなかったため、日本精器の株主名簿に名義書換の手続をとりえず前示2の各増資新株発行にあたって、原告名宛の新株引受権を付与されず、株券上ならびに株主名簿上に株主と表示され、したがって原告より名義を実質上借りている被告が各増資時に原始株および原始株に根を発する既往増資株を基準として各新株発行につきその都度その名義で割当をうけ当該分につき被告自ら額面払込みのうえ株主名義を保有するにいたった。すると各次増資株についても原告が有する原始株より派生したものは被告名義で割当・払込・株券上記名・株主名簿登載がなされていても原告が保有するところというべきである。しかし特段の事情が窺えないから原告が保有する増資株式は原始株より派生した増資新株式のすべてにわたるものではなく在外者である原告が原始株譲受時に本件株券に裏書をうけたならば、同人が得られたであろう増資新株数の限度にとどまるものというべきである。
5 すると原告が被告名義で保有する増資株は第二別表のごとく三、八五〇株となる。
(乙第五号証の一ないし四、証人門田正見および被告本人の各供述、弁論の全趣旨)
三、増資新株についての利益配当
1 請求原因三1は被告の明かに争わないところである。
2 前出二5に示した原告が保有する増資新株に対する利益配当金は原告が受けるべきものであり、右を日本精器より受領した被告は不当利得として原告に返還すべき義務がある。
3 その額は第二別表記載のとおり金二八四万五、〇〇〇円となる。
四、結論
してみると被告は原告に対し、本件原始株譲渡人として本件株券への譲渡裏書義務、原告が保有すべき日本精器株式会社発行の株式三、八五〇株額面計一九二万五、〇〇〇円の株券を一九二万五、〇〇〇円の提供をうけるのと引換に裏書交付する義務ならびに主文第一項(3)掲記の金員支払義務があるものというべく、原告の本訴請求を右の限度で認容しその余を棄却すべく、被告の反訴請求は失当である。<以下省略>。